仕事のメールで学ぶ聖書の読み方 第6回:「急ぎではありませんが」

目次

第6回:「急ぎではありませんが」

――「言葉の裏」にある熱量を読み取れていますか?(修辞と比喩)

1. 【メールの現場】:額面通りに受け取ると大火傷をする

仕事をしていると、こんな枕詞がついたメールが届くことがありますよね。

「急ぎではありませんが、お手すきの際にご確認ください。」

これ、本当に「急がなくていい」と真に受けて、一週間放置したらどうなるでしょうか。……おそらく、数日後には上ガタガタと震えるような催促が飛んできます。

この「急ぎではない」は、多くの場合、相手に対する「配慮という名の修辞(レトリック)」です。本当は「早めに見てほしいけれど、こちらから急かすのは失礼だから、あなたの良識に任せますよ」という、高度なコミュニケーションなんです。

言葉を字面通りに読むだけでは、相手の「本当の狙い」を外してしまいます。皮肉、誇張、遠回しな表現。私たちはビジネスの現場で、言葉の裏側にある「意図」を必死に読み取っているはずです。

2. 【釈義のメス】:神様は「比喩」の達人である

聖書も、ただの事実の羅列ではありません。神様は、人間の心に真理を突き刺すために、さまざまな「レトリック」を駆使されます。

  • 誇張法: あえて大げさに言って、事の重大さを強調する。
  • 比喩(メタファー): 抽象的なことを、具体的なイメージで伝える。
  • 皮肉(アイロニー): 逆のことを言って、相手の矛盾を突く。

これを理解していないと、「急ぎではない」を真に受けて放置する新入社員のように、神様の言葉を「誤読」してしまいます。聖書を「科学の論文」や「事実の記録」としてだけ読もうとすると、このレトリックという一番美味しい部分を捨ててしまうことになるんです。

3. 【聖書のケーススタディ】:右目をえぐり出す必要はあるか?

では、イエスの有名な「過激な」発言を例に見てみましょう。

「もし、右の目があなたを罪に誘うなら、それをえぐり出して捨てなさい。」(マタイによる福音書5章29節)

  • 「字面通り」に読む誤読: 「クリスチャンは、悪いことを考えたら自分の目を潰さなきゃいけないのか。なんて恐ろしくて残酷な宗教なんだ……」
    これを「マニュアル」として読めば、確かにホラー映画です。でも、ここに使われているのは、典型的な「誇張法」というレトリックです。
  • 「レトリック」として読む読み方: イエスは、別に外科手術を勧めているわけではありません。 「その場の快楽や誘惑に流されることは、体の一部を失うことよりも、あなたの人生にとって致命的なダメージになるんだよ」ということを、これ以上ないほどショッキングな言葉を使って伝えているんです。
    「急ぎではありませんが」が、裏を返せば「超特急で!」という意味を持つのと同じで、この「目をえぐり出せ」は、「それくらい、罪の根源を絶つ覚悟を持ちなさい」という強烈な励ましと警告なんです。レトリックを理解すれば、この言葉が「暴力」ではなく、私たちの人生を守ろうとする「必死の呼びかけ」であることが分かります。

4. 【鏡としての問い】:建前の裏にある「本音」から逃げていませんか?

さて、私たちは聖書を読むとき、神様の「レトリック」を都合よく使い分けていないでしょうか。

自分にとって都合の悪い厳しい戒めが出てくると、「ああ、これはただの比喩ですよね、大げさに言ってるだけですよね」と、さらっと受け流して、中身を骨抜きにしてしまう。 逆に、自分の不安を煽るような箇所を見つけると、文字通りに受け取ってガタガタ震えてしまう。

それは神様の言葉を読んでいるのではなく、自分の「都合の良い解釈」という名のフィルターで、神様の本音を遮断している状態です。

「急ぎではありませんが……」と言いながら、神様があなたの心のドアをドンドン叩いている音が聞こえますか?

言葉の裏側にある、神様の「必死さ」や「切実な愛」に触れること。 「どういう意味か」を頭でこねくり回すのをやめて、その言葉が突き刺そうとしている「自分の核心」に身をさらしてみる。 神様がわざわざ派手なレトリックを使ってまで伝えたかった「本音」を受け取ること。それが、テキストという表面的な殻を破って、生身の神様と出会うということなんです。

今日の振り返り: あなたが「極端だな」と感じる聖書の一節。 神様がなぜ、そこまで強い言葉を使わなければならなかったのか、その「切実さ」を想像してみてください。 その言葉は、あなたの人生の「どこ」を指し示していますか?

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この記事を書いた人

カトリック教会司祭。
愛媛県松山市出身

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